今回はフィプセンとそのバリエーションゲームを紹介します。
かなり濃い話になりそうですので、最初によく日本で遊ばれているフィプセンのゲームの説明をします。
現在日本で遊ばれているフィプセンは、プリスドルフのルールと思われます。
フィプセン(Fipsen)
フィプセンは18世紀後半から19世紀初頭に登場するトランプゲームです。
ただこのゲームは色々な名前で呼ばれていたようです。
フィプセンは現在でもドイツのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州でプレイされており、2017年ドイツのピンネブルグで、2020年ドイツのグローナスペでフィプセンのトーナメントが行われたそうです。
トーナメントが行われた会場は、2021年3月末で閉鎖されたようです。
👉人数:3.4人。個人戦になります。
まず4人で説明します。3人の時については、後述します。
👉使用するトランプ:通常のトランプより次のカードだけ使用します。
- ダイヤ:♦7
- それ以外のスート:7,8,9,10,J,Q,K,A(2~6を除きます)
👉目的:宣言したビッドを成功させ得点をとること。
このゲームは終了条件が特に決まっていません。
プレイする前にディール数など決めてください。
👉カードの強さ:A>K>Q>J>10>9>8>7
このゲームは時計回りに進行します。
ディール
じゃんけんなど適当な方法で最初のディーラーを決めます。
以降ディーラーは時計回りに持ち回りで交代します。
カードの配り方は次の通りです。
- ディーラーは時計回りに各プレイヤーに3枚ずつ、裏向きのまま配ります。
- その後ディーラーは、テーブルの中央に裏向きのまま2枚起きます。このカードを「スカート」と呼びます。
- さらにディーラーは、時計回りに各プレイヤーに2枚ずつ配ります。
- 余った3枚は裏向きのまま、テーブルの脇に置きます。
ビッド
フィプセンのビッドは、1対1の勝ち抜き形式で行います。
ディーラー左隣のプレイヤーが最初の「親」になります。
親はパスかビッドを宣言します。ビッドをする場合は、以下の方法のいずれか1つを選択して宣言します。
- 最低2以上で、自分が取れるであろうトリック数を宣言する
- 最低2以上で自分が取れるトリック数に加え、オプションを付ける
- 特殊な宣言をする
オプション
オプションは次の3つになります。オプションは複数付けることができます。
オプションの宣言を1つ追加するごとに得点が倍になります。
つまりオプション1つで2倍、オプション2つで4倍、オプション3つで8倍になります。
- ルーテン:切り札を♦にする(♦は1枚しかありません)。手札に♦がなくても宣言できます。
- ハンド:ハンドの2枚と交換しないでプレイする
- ドゥルヒ:ビッドで宣言したトリック数に関係なく、全5トリックを取る
ビッドで5を宣言した場合、ドゥルヒは自動的につきます。
親がビッドした後、親の左隣のプレイヤーはそれより強いビッドを宣言したするか、またはパスをします。
より強い宣言をする場合は、親の宣言したトリック数より多い数を宣言するか、同じトリック数でオプションを付けるかになります。
ただしオプションは最大3つしか付けられません。
親の左隣のプレイヤーがより強い宣言をした場合、親は次のうちいずれか1つを宣言します。
- より強いビッドを宣言する
- ホールドを宣言する
- パスをする
オプション付きのビッドでホールドを宣言した場合、オプションの付けた数は守らなければなりませんが、後で付けるオプションを変えてもかまいません。
いずれか1人がパスをするまでビッドを続けます。
いずれか1人がパスをした場合、残ったプレイヤーが「親」になって、残りのプレイヤーでより左隣にいるプレイヤーと1対1のビッドをします。
ビッドは1人残るまで続けます。残った1人がデクレアラーになります。
4人全員パスした場合は配り直しになります。その場合ディーラーは交代しません。
特殊な宣言
✅キーカー:手札に絵札(K,Q,J)が1枚もないときのみ宣言できます。Aはあってもかまいません。
キーカーは4と5の中間の強さになります。キーカーは全5トリック取るという宣言になります。
キーカーは全トリック成功すれば10点、失敗すると-20点になります。
キーカーはルーテンを付けることができます。
ルーテンを付けた場合、得失点は倍になります。
✅ズィーペナーフィプス:手札に「7」が4枚、Aが1枚あるときのみ宣言できます。この宣言をした瞬間、該当のプレイヤーは手札を見せて30点獲得します。
ズィーペナーフィプス宣言した場合、プレイすることなく1ディール終了となります。
ズィーペナーフィプス宣言は、手札の交換の後でも宣言できます。
プレイ
キーカーについては後述します。
デクレアラーはプレイする前に、ハンドと交換するかしないかを選択します。
ただし、ビッドで「ハンド」をオプションで付けた場合、ハンドとの交換はできません。
交換しなかった場合、自動的に「ハンド」がつきます。
交換する場合は、ハンドの2枚を手札に加えた後、2枚裏向きにして捨て札にします。
その後、デクレアラーは切り札を宣言します。
ただし、ビッドでルーテンをオプションで付けた場合、♦が自動的に切り札になります。切り札の宣言は不要です。
切り札を♦にした場合、自動的に「ルーテン」がつきます。
デクレアラーが最初のリードプレイヤーになります。
リードプレイヤーは手札から好きなカードを1枚、表向きにして場に出します。
以降リードプレイヤーが出したスートがあれば、必ずそのスートを表向きにして場に出します。
該当のスートが複数枚ある場合は、その中から好きな1枚を表向きにして場に出します。
ない場合は、切り札を含めて好きなカードを出せます。
全員出し終わった後、このトリックの勝者を決めます。
- 切り札が出ていない場合は、リードプレイヤーが出したスートで、一番強いランクを出したプレイヤーが勝ちます。
- 切り札が出ている場合は、切り札スートで一番強いランクを出したプレイヤーが勝ちます。
勝ったプレイヤーは出したカードを裏向きにして、自分の脇に縦に置きます。
負けたプレイヤーは出したカードを裏向きにして、自分の脇に横向きにして置きます。
勝ったプレイヤーが次のリードプレイヤーになります。
デクレアラーはビッドで宣言したトリック数に達していて、かつ1トリックも負けていない場合、このまま続けることができます。
続ける場合は、全トリックを取ることになります。この場合、自動的に「ドゥルヒ」がつきます。
止める場合は、他のプレイヤーにわかるように止めることを宣言します。
デクレアラーが止めるを宣言した場合、またはデクレアラーが宣言したトリック数を取れないことがわかった時点で1ディール終了します。
キーカー
デクレアラーは、左隣のプレイヤーに絵札(K,Q,J)が1枚もないことを確認してもらいます。
その後デクレアラーはハンド2枚と配り残りの3枚を手札に加えた後、裏向きにして5枚捨て札にします。
手札の交換するかしないかは自由です。交換してもしなくても得失点に影響はありません。
デクレアラーは手札を交換した後、全トリック取る自信がなければ降参することができます。
降参した場合、-5点になります。
降参しなかった場合、デクレアラーは切り札を宣言します。
ただし、ビッドでルーテンをオプションで付けた場合、♦が自動的に切り札になります。切り札の宣言は不要です。
切り札を♦にした場合、自動的に「ルーテン」がつきます。
また交換した後(交換する前)、手札が「7」4枚、「A」1枚の場合、ズィーペナーフィプスを宣言します。
宣言した後、他のプレイヤー全員に手札を公開します。
この宣言により30点獲得し、プレイせずに1ディール終了します。
デクレアラーが最初のリードプレイヤーになります。
プレイの仕方は、上述と同じです。
全トリック終了するか、またはデクレアラー以外のプレイヤーが1トリック取ったシュナカンに1ディール終了します。
得失点
1ディール終了後、デクレアラーのみが得失点を獲得します。
オプションを付けなかった場合デクレアラーが成功した場合、宣言したトリック数が得点になります。
オプションを付けている場合は、オプション1つごとに2倍します(2倍、4倍、8倍)。
失敗した場合、デクレアラーは上記の得点分の2倍が失点になります。
キーカーの場合、成功は10点、失敗すると-20点になります。
キーカーでルーテンを付けた場合、得失点は倍になります。
キーカーで降参した場合は、-5点になります。
ズィーペナーフィプスは30点獲得します。
得失点をまとめると、次の表になります。
ゲーム終了
ゲーム終了は特に決まっていません。
プレイする前にディール数を決めてください。
事前に決めたディール数など終了後、ゲーム終了になります。
得点が最も高いプレイヤーの勝利になります。
3人プレイ
3人の場合も各プレイヤーに5枚ずつ配ります。
テーブル中央に裏向きで置くハンドも2枚です。配り残りは8枚になります。
キーカーを宣言した場合、左隣のプレイヤーに手札に絵札を確認してもらいます。
その後手札5枚を裏向きに捨て、ハンド2枚と配り残り8枚、計10枚を手札にします。
10枚の手札から5枚を捨て札にしてから切り札を決めます(または降参します)。
手札の交換するかしないかは自由です。
上記以外は4人と同じです。
トーナメント
トーナメント戦では可能な限り4人ずつ座ります。
参加人数によっては3人1テーブルにして調整します。
トーナメント戦では4人の場合100ディール、3人の場合は120ディールプレイします。
最低ビッド
ビッドで宣言する最低トリック数を3以上に変更します。
コントラ・リコントラ
デクレアラーが切り札を宣言した後、他のプレイヤーは誰でも「コントラ」を宣言できます。
コントラに対し、デクレアラーはレコントラを宣言できます。
コントラは得失点をさらに2倍にします。
レコントラは得失点をさらに4倍にします。
コントラ・リコントラはトーナメント戦では採用されていません。
グローナスペのフィプセン(Fipsen in Großenaspe)
3~5人までプレイできます。最初に4人プレイのルールを説明します。
グローナスペのフィプセンでは、各スート2~6とジョーカーを除いた32枚を使用します。このゲームではシャッフル後のカットは行いません。
ディーラーは時計回りに各プレイヤーに3枚、裏向きのまま配った後、テーブル中央に2枚裏向きに配ります。
その後各プレイヤーに2枚ずつ、裏向きのまま配ります。
配り残りの10枚は裏向きのまま、テーブルの脇に置きます。この2枚をスカートと呼びます。
ディーラー左隣のプレイヤーからビッドをするか、またはパスをします。
ビッドは時計回りに行います(1対1の勝ち抜き形式ではありません)。
ビッドは最低1以上から5までになります。
オプションとして♣を切り札にする「グーテ」を付けることで、同じビッド数より強いビッドになります。
すでにビッドされている場合は、直前のビッドより強いビッドをするか、または同じビッドに「グーテ」をつけるか、またはパスをします。
また特殊なビッドとして次の2つがあります。
- キーカー:手札に絵札(K,Q,J)が1枚もない場合、このビッドを宣言できます。ビッドの強さは、4のグーテより強く、5よりも弱いビッドになります
キーカーにグーテを付けることができます。
キーカーを宣言した場合、 手札を5枚裏向きに捨て、スカーフ枚と配り残りの10枚を手札に加えます。その後、手札が5枚になるよう、裏向きにして捨て札にします。
手札の交換するかしないかは自由です。
手札の交換の後、切り札を宣言します。♣を切り札にした場合は、自動的にグーテがつきます。
キーカーは全5トリック取れば成功になります。成功した場合、10点獲得します。グーテをオプションに付けた場合(または♣)を切り札にした場合、 得点は20点になります。
プレイする前に降参することもできます。降参した場合、 他のプレイヤー全員に5点ずつ与えます。キーカーを宣言したプレイヤーの得点はありません。
- フィプス:最も強いビッドになります。このビッドはスカート2枚と交換をしないで、全5トリックを取る宣言になります。フィプスにグーテを付けたビッドが最強のビッドになります。
フィプスの宣言した後、切り札を宣言します。♣を切り札にした場合は、自動的にグーテがつきます。
全5トリック取れば成功になります。成功した場合、20点獲得します。グーテをオプションに付けた場合(または♣)を切り札にした場合、 得点は40点になります。
ディーラー左隣のプレイヤーは最初のリードプレイヤーになります。
プレイは通常のフィプセンと同様です。
デクレアラーがビッドしたトリック数をとった時点で1ディール終了します。
ただし、デクレアラーが1度もトリックを他人に取れていない場合、その時点で続けることもできます。
続けた場合5トリックをビッドした扱いになります。
デクレアラーが1トリックもとっていない場合、デクレアラーが宣言したトリック数をとれないことがわかっていても、デクレアラーがトリックを取るまでゲームは続けます。
1ディール終了後、デクレアラーが宣言したトリック数を取れれば成功、取れなかった場合は失敗になります。
デクレアラーのビッドが成功した場合、ビッドで宣言したトリック数がそのまま得点になります。「グーテ」または切り札を♣にした場合、得点は倍になります。
デクレアラーが失敗した場合、デクレアラーが本来得られる得点を他のプレイヤー全員が獲得します。デクレアラー自身の得点はありません。
もしデクレアラーが1トリックも取れなかった場合、他のプレイヤー全員は5点獲得します。「グーテ」または切り札を♣にした場合、他のプレイヤー全員は10点獲得します。
バリエーション
非公式ルールですが、デクレアラー以外のプレイヤーはプレイする前に、テーブルをノックをすることで、得点を倍にすることができます。
✅3人ルール:Karo Fipsenとして知られています。上述のフィプセンと同様、♦7だけを使った25枚でプレイします。はっきりしたルールはわかっていません。
✅5人ルール:交代で1人抜けて4人でプレイするか、または5人のままで各プレイヤーに5枚ずつくばり、スカート2枚をテーブルに置きます。配り残りは5枚になります。それ以外は4人プレイ時と同様です。
テディングハウゼンのフィプセン(Fipsen in Thedinghausen)
5人プレイのみになります。
上記のフィプセンとはかなり異なる点が多いゲームです。
ビッドは行いません。
テディングハウゼンのフィプセンでは、各スート2~6とジョーカーを除いた25枚を使用します。
各プレイヤーは、ゲーム開始時にパンの代金として80セントを支払います。
ゲームの勝者は、賞品であるパンの引換券を受け取ります。もらったパンはその場で食べたり、家に持ち帰っても良いそうです。
ディーラーは時計回りに各プレイヤーに3枚、裏向きのまま配った後、配り残りの1枚を表向きにしてテーブルに置きます。
このカードのスートが切り札になります。
その後各プレイヤーに2枚ずつ、裏向きのまま配ります。配り残りの6枚は裏向きのまま、テーブルの脇に置きます。
切り札表示のカードが「A」の場合、切り札の「7」を持っているプレイヤーは、切り札表示のカードと交換することができます。
ディーラー左隣のプレイヤーが最初のリードプレイヤーになります。
プレイは上述のフィプセンと同じです。
このゲームは、通算10トリック以上取ったプレイヤーの勝利となり、1ゲーム終了となります。
1ゲーム終了後、賞品を受け取り再度リセットしてゲーム続けるそうです。
全5トリック取った場合、「ヘドウイッグ(Hedewig)」(レーズンパンのような菓子パンかと思われます)を5つ受け取ります。
また他のプレイヤー全員から1ユーロを受け取ります。その後ゲームを続けます。
メクレンブルグのフィプセン(Mecklenburg Fips)
メクレンブルグの方言辞書に2つのルールが記載されているそうです。
♦はAのみで、他のスートは各スート2~6とジョーカーを除いた25枚を使用します。
各プレイヤーに5枚ずつ配り、残った5枚はテーブルの中央に裏向きのまま置きます。このカードを「ダット」と呼びます。
2つのルールとも残念ながら得点の明記はありません。
📔アンセガー・フィプス(Anseger Fips)
上述のフィプセンの祖先あたるゲームと思われます。
ビッドは最低1以上から5まで行います。
オプションビッドとして♦を切り札にする「ルーテン」を付けることで、同じビッド数より強いビッドになります。
全員パスした場合は配り直しになります。
5をビッドすると「フィプス」になり、「ルーテンの5」が最強のビッドになります。
おそらく「5」をビッドすると、ダットとの交換はできないと思われます。
📔ダット・フィプス(DuttFips)
誰もビッドしなかった場合(全員パスした場合)、ディーラー左隣のプレイヤーはダット5枚を手札に加え、手札が5枚になるよう捨て札にします。
ディーラー左隣のプレイヤーは、単独で最多トリックを散る必要があります。
他のプレイヤーは上記の権利を「ルーテン・ウーバー」宣言し、その権利を奪うことができます。ダットとの交換はできますが、切り札は♦になります。
5、「ルーテンの5」が最強のビッドになります。この宣言でダットと交換できるかどうかについては、はっきりしていません。
参考文献・参考サイト
・トランプ大全 赤桐 裕二 スモール出版
閑話休題
フィプセンの配り残りの3枚の呼び方、祖先と思われるメクレンブルグのフィプセンでは、「ダット」と呼んでいることより、ダットなのではないかなと想像しています。
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